妖精データベース

デュラハン

Dullahan
デュラハン

Illustrator : sirotae

  • 名称 デュラハン(Dullahan、Dulachan)
  • 別名 ダークマン(Darkman)、ガンセアン(Gan Ceann)
  • 分類 危険な妖精
  • 生息地 人気のない夜道
  • 特徴 死を予言し、時には死をもたらす
  • 体長 長身の成人男性
あの恐ろしい首無しの影は、
闇夜と共にやってくる。

デュラハンとは―死を予言する首無しの騎士―

デュラハンは、人々の死を予言し、時には死をもたらす首無しの妖精だ。元々は人間であった者が不運な死を迎えると、デュラハンになるという。

黒い馬に乗って甲冑をまとった西洋騎士のような恰好をしているデュラハンだが、やはり一番の特徴といえば首が無いことだろう。デュラハンはいつも片方の手で自分の首を抱えていて、もう片方の手で馬の手綱を握っている。

彼の首から上の部分はすっかりなくなっているが、黒い靄のようなもので覆われており、確認できない場合もある。

しかしごく稀に、頭部のあるデュラハンも存在するようだ。その顔を目撃した者は、「彼の口は耳まで裂けていた」と語っている。

デュラハンのイメージ画像
デュラハンのイメージ図。馬を操る鞭は人の背骨で出来ていると言われている。
(イラスト:sirotae)

デュラハンが乗っている黒い馬は非常に速く走ることができる名馬で、「コシュタ・バワー」という名を持っている。馬には首があるものと首がなくなってしまっているもので、双方の目撃証言がある。

さらに、デュラハンの中には、馬車を操る御者として現れるものもいる。この馬車は、棺桶を乗せた霊柩馬車だ。デュラハンは自ら馬車に乗って登場するわけではなく、人の魂を連れ去るために馬車を駆っているというわけだ。

馬車を引く馬の数は必ずしも1頭ではなく、多いものでは4頭の馬で馬車を連れて駆けるデュラハンも存在する。

夜の街を駆け、人々に死を告げる

バーゲストのイメージ画像
アイルランドのスライゴ県では、デュラハンがバーゲストに変身したという目撃情報もあるようだ。
(出典:Adobe Stock)

夜はデュラハンの活動時間だ。彼は馬や馬車を駆って街中を疾走し、死が近い人間の住む家へと向かうのである。目的の家に着くと、これから死を迎える人間の名前を呼び、死が迫っていることを低い声で告げる。

こうして死の予言を受けた人物は、しばらくの間は無事に過ごすことが出来ても、1年後には死んでしまうという。

さらにデュラハンは、自分に対して無礼を働いた人物や、命の灯火が今まさに消えようとしている人物に対しては、直接命を奪う行動に出ることもある。彼らはさながら死神のような存在だ。

死を予言する妖精としては、バンシーと近い存在だとも感じられるだろう。だが、デュラハンはバンシーとは異なり、人間の命を奪うこともあるのだ。同じ死を予言する妖精であっても、デュラハンはバンシーよりも注意が必要である。

また、死を告げる妖精には「バーゲスト」 も存在する。こちらは犬の姿をしており、デュラハンとバーゲストには共通点もあるとのことだ。

現代の交通事情にはデュラハンもお手上げ?

街にデュラハンが死の予言を行いに来たときは、不要不急の外出はしないほうが良い。デュラハンは自分の姿を見られることを嫌っており、もしも見てしまうと異様に怒り出すからだ。

彼の姿を見た者は、目くらましに大量の血を浴びせかけられたり、伸縮自在のムチでその目を潰されてしまうだろう。

自分の家まで来てしまったデュラハンや、誰かの家に向かう途中のデュラハンがいても、知らんぷりを決め込むのがいいだろう。

金の装飾のイメージ画像
デュラハンは金を苦手とするようで、金の装飾を付けていると寄り付かなくなる。「自分の金歯を投げつけたらデュラハンが逃げていった」という逸話も残る。
(出典:Adobe Stock)

デュラハンの馬や馬車には、深い水を渡ることができないという弱点がある。そのため、もしデュラハンの姿を見てしまった時は、川の向こう岸などに逃げるようにするのが良い。

また、アイルランドとイギリスのコーンウォール地方では、大きな木の後ろ、もしくは洞穴に身を隠せば、デュラハンから気付かれることはないと言い伝えられている。

ただし、現代のデュラハンは、交通量が多い道や狭い道で馬を扱う難しさに悩んでいるらしい。それに、両手がふさがっていてインターホンも押せないし、馬が邪魔でエレベーターにも乗れないので、デュラハンを回避するのは意外と簡単だ。

家にいるときに、誰とも知らない気配が扉の前から伝わってきても、開けないほうが賢明だろう。

Column

女のデュラハン・現代のデュラハン

デュラハンは屈強な首無し騎士としてのイメージが強いが、実は女性のデュラハンも存在する。スコットランドでは女性のデュラハンが出現しやすい傾向にある。

無念の死を遂げた人間であれば、女性もデュラハンになる場合があるのだ。それに、デュラハンは元々女だったという説もあるくらいで、ワルキューレやバンシーなど、死と関わる妖精と何らかの繋がりがあるのではないかと考えられている。

多くの人々が亡くなった疫病や大飢饉などの際には、「バンシーがデュラハンを引き連れて現れた」、「デュラハンの馬車にバンシーが乗っていた」といった目撃談もあるほどだ。ただし、女であっても男であってもデュラハンの役割は「死の予言を行うこと」であり、恐ろしい妖精の一種であることには変わりない。

また、現代のデュラハンの中には、バイクを乗り回しているものもいる。運転技術はかなり高いが、ハイスピードで荒っぽく駆け回っていることが多いそうだ。さらに、デュラハンには顔がないので、道は走れても信号を見ることができない。

だから、信号無視して爆走しているバイクがいたら、それはデュラハンに違いない。バイクに乗るときはくれぐれも安全運転で、デュラハンと間違われないように心がけたい。

Tips

インドでは、デュラハンとよく似た精霊「ドゥンド」が知られている。
デュラハンと同じく馬に乗り、頭のない姿で現れるドゥンドは、家の中にいる人の名前を呼ぶ。この呼びかけに返事さえしなければ、命をとられることはない。

― 関連書籍 ―

  • K.ブリッグズ著/井村君江訳(1991)『妖精の国の住民』― ちくま文庫
  • 草野巧著/シブヤユウジ画(1999)『妖精』― 新紀元社
  • キャロル・ローズ著/松村一男監訳(2003)『世界の妖精・妖怪事典』― 原書房
  • 井村君江(2008)『妖精学大全』― 東京書籍
  • エドゥアール・ブラゼー著/松平俊久監修(2015)『西洋異形大全』― グラフィック社

― SNSでこの記事をシェアする ―

このエントリーをはてなブックマークに追加