妖精データベース
ガンコナー
Illustrator : sirotae
- 名称 ガンコナー(Ganconer、Gancanagh)
- 別名 ギャン・カナッハ(Gan-Ceanach)
- 分類 人型の妖精
- 生息地 深い森、人里離れた谷
- 特徴 美青年に変身して女性を惚れさせる、粘土製のパイプを愛用する
- 体長 元々150cmくらいだが、成人男性に変身時は約180cm
偽りの恋人は甘美な声で愛を騙る
ガンコナーとは―魅力的な言い寄り魔―
ガンコナーは、「言い寄り魔」と呼ばれる妖精だ。その名の通り、彼らは女性を惚れさせることに特別な喜びを感じる妖精で、いつも道行く女性に声をかけている。
ガンコナーは深い森の中や寂しい渓谷など、人が少ない場所によく出没する。その他にも都会であれば路地裏など、目立たない場所で女性に言い寄ることが多いようだ。
その方が周囲の人に怪しまれないから、都合が良いのだろう。特にアイルランドでの目撃情報が多いガンコナーだが、どこの国にも出没する可能性はある。
彼らは空を飛ぶことはできないが、望んだ場所に瞬時に移動できる能力を持っているのだ。
ガンコナーは、一見すると誰もが振り向くような美青年なので、声を掛けられると話してみたくなるかもしれないが、その容貌に騙されてはならない。
ガンコナーの本当の姿は、尖った耳と異様に大きな目、そして使い物にならないボロボロの羽を持った醜い老人であり、彼らは魔法を使って変身しているだけなのである!
端正な顔立ちと甘い囁きで女性を虜に
道行く女性に言い寄るガンコナーは、皆が思わず二度見するほどの雰囲気を持ち合わせている。その上、ターゲットにした女性の好みの顔に変身をして姿を現すので、油断は禁物だ。
彼らはファッションにも気を配っており、いつもこぎれいな恰好をして、他の妖精からもらった魅了の香水をつけて出歩いている。
さらにその見た目だけでなく、巧みな話術も女性を魅了する助けの一つとなっている。彼らは聞き上手で褒め上手だから、一旦話し始めると相手を夢中にさせてしまうのである。
また、ガンコナーといえば「ドゥディーン」と呼ばれる短いパイプをふかしていることが大きな特徴だ。彼らにとってこのパイプは欠かすことのできない服飾品であり、毎日手入れを行っているという。
ガンコナーに魅せられるとどうなる?
ガンコナーに魅せられた女性のその後は極めて不憫だ。 ガンコナーは沢山の女性に言い寄り、惚れさせた後、すぐに遠くへと旅立ってしまうので、恋は一瞬のうちに終わるのである。
どこかへ去ってしまったガンコナーに恋焦がれる女性は、もうガンコナーに会えない現実に絶望して死んでしまうという。ガンコナーに魅せられた女性の中には、自分の死に装束を織ってから命を絶った者もいる。
危険な恋煩いを避ける方法はただひとつ。ガンコナーに出会っても、決して深入りしないことだ。
ガンコナーと人との判別はそう難しくない。彼には影がないのだ。また、ガンコナーが現れるや否や、それまでうるさく鳴いていた鳥たちがしんと静まり返るとも伝えられている。
もしもガンコナーが話しかけてきたら、恋に落ちてしまう前に素早く十字を切ろう。十字架が大嫌いなガンコナーは、苦しそうな叫び声を上げながら姿を消すだろう。
少しかわいそうな気もしないではないが、自分の身を守るためには知っておいても損はない。
ガンコナーが愛用する「ドゥディーン」
ガンコナーが、いつもくわえている「ドゥディーン」は、長さ10cmほどの粘土製のパイプだ。木製や樹脂製のパイプが多い中で、粘土製のものは珍しい。
ドゥディーンは、職人の妖精が作った力作であり、どんなタバコの葉っぱでも、一級品の味と香りを感じられるように魔法がかけられている。ただし、粘土製なので割れやすいのが玉にきずだ。
ガンコナーはこのドゥディーンを自身の象徴として大切にしており、毎日手入れをして新品のように保っている。ドゥディーンの手入れをする時のガンコナーはとても真剣だが、そのかいがいしさをぜひ女性のためにも使ってほしいものだ。
Tips
アイルランド伝統のスポーツ「ハーリング」は、ガンコナーたちに人気だ。ハーリングは、木のスティックと皮のボールを使う、ホッケーやサッカー等を組み合わせたような球技。彼らはチームを作り、夜な夜な対戦に興じるという。
― 関連書籍 ―
- 高畑吉男(2021)『アイルランド妖精物語』- 戎光祥出版
- 草野巧著/シブヤユウジ画(1999)『妖精』― 新紀元社
- キャロル・ローズ著/松村一男監訳(2014)『世界の妖精・妖怪事典』- 原書房
- ポール・ジョンソン著/藤田優里子訳(2010)『リトル・ピープル』- 創元社
- 井村君江(1993)『イギリス・妖精めぐり はじめての出会い』- 同文書院
- キャサリン・ブリッグズ編著/平野敬一・井村君江・三宅忠明・吉田新一共訳(1992)『妖精事典』-冨山房