妖精データベース

バンシー

Banshee
バンシー

Illustrator : 真崎 零

  • 名称 バンシー(Banshee、Bean sidhe)
  • 別名 バジャロシュッシュ、グーラッハ・フリビン
  • 分類 不気味な妖精
  • 生息地 病人が臥せる民家、病院、戦場
  • 特徴 人々に死を伝える
  • 体長 7~8歳の身長~長身の成人女性程度
悲痛な叫びに目を覚ました。
あれはバンシーたちの泣き声だ。

バンシーとは―死を告げる女妖精―

バンシーは、人の死を予告する女妖精である。彼女たちは、数日中に誰かが亡くなることを察知すると、その人が住む家の窓の下で泣き叫ぶ。この号泣こそがバンシーの死の予告だ。今にも失われそうな命の灯に気づいたバンシーは、その涙と叫び声で深い悲しみを表現するのである。

バンシーは、髪の長い、美しい女性の姿をしていることが多い。暗い印象のローブやマントを身にまとい、人間社会に溶け込んでいる。死にゆく者のために真っ赤になるまで泣きはらした彼女の目は、涙で赤くきらめいている。

人間に教えや予言めいたことを告げる妖精は数多くいる中で、バンシーは「人の死」を告げる妖精だ。イメージとは異なるかもしれないが、首無し妖精のデュラハンも死を予言する存在である。どちらも死を思わせる存在として、人々には避けられている。ただし、デュラハンが死をもたらす妖精であるのに対して、バンシーはむしろ人に寄り添う存在という側面も、このページで覚えてもらいたいポイントだ。

次に、バンシーの特徴とその生態を紹介しよう。

悲痛な泣き声で人の死を予告する

バンシーは普段、泣きはらした素顔を人間に見られないように、 人気のない丘や地下街で静かに過ごしている。どこか儚い印象のあるバンシーだが、泣き叫ぶ時には髪や服を振り乱しながら全身で悲しみを表現する。

彼女たちの泣き声は、様々な生き物の悲痛な叫びを集合させたような金切り声であることが多い。辺り一帯に響き渡る悲し気な叫び声は、聞く者の胸を切なく締め付ける。中には、けたたましい赤ん坊の泣き声やオオカミの遠吠え、コウモリの鳴き声などによく似た声で泣くバンシーもいるという。危険性はそこまでないが、至近距離での叫び声で耳を傷つけられないように注意されたし。

ちなみに、アイルランドの葬儀には、死者を弔うために女性たち(泣き女)が泣き叫ぶように歌う「キーン(keen)」という習俗があるのだが、彼女たちの慟哭はバンシーの泣き声を真似たものだといわれている。

バンシーは誰かの死を察知すると、その人の命が失われるまで泣き続ける。落命を見届けたバンシーは解放され、静かにその姿を消すのだ。

しかし、死を迎える人間が多数いる場合、バンシーは姿を消さずに泣き続けることになる。人の死が続くことはバンシーにとっても不幸なことで、特に疫病や戦争が原因で大勢の命が失われた時は、叫びすぎて呼吸器が傷つき、かすれた声しか出なくなっても、叫び続けるのをやめられない不憫なバンシーが多かった。

泣きすぎて顔がぼろぼろになってしまったものや、老婆のように年を重ねたものと出会ったら、バンシーの壮絶な過去が推察できる。彼女たちは今までも幾人もの死を見届けてきたが、これからも人の死を見送り続けることだろう。

人々に幸運をもたらすことも

ここまで、バンシーがいかにして人々の死を予告するかを解説してきたが、バンシーには意外な一面も存在する。彼女は、人々に幸福をもたらすこともあるのだ。

例えば勇気を振り絞って、泣き叫んでいるバンシーにキスをすると、3つの願いを叶えてくれるという言い伝えがある。願いが叶うといっても、自分自身や身近な人の死を取り消すことは不可能だ。しかし、最期の時間を有意義に過ごそうと、前向きさを取り戻すことはできるであろう。

さらに、バンシーは遠方に住む家族の死を予告する場合がある。バンシーがはるか遠くの地まで赴いて、泣き叫びながら死の予告をしたおかげで、何とか家族の死に目に立ち会えた人も存在するのだ。これはバンシーがもたらした不幸中の幸いといえよう。

バンシーの容姿や叫び声は、人の死を思わせる。それゆえに、バンシーは不幸を呼び込む存在として避けられてきた。しかし、自らを厭わず人間にメッセージを送り続ける彼女たちは、これから死にゆく者の冥福を祈るために泣き、時には人々に幸福をもたらす存在でもあるのだ。そんなバンシーたちの叫びに、興味をもって耳を傾けてみるのも良いだろう。

Column

名家に取り憑くバンシー

由緒正しい家柄の者が死にゆく時には、と複数のバンシーが現れる。死の間際に出現するバンシーの数が多く、彼女たちの泣き声が大きければ大きいほど、「名家である」と評価される地域もあるほどだ。

さらに、バンシーが複数現れるような家には高価な値が付く。悪霊が出るいわくつきの物件とは異なり、バンシーがたくさん現れる家は、かつて名士が住んでいた家だと考えられ、それだけで格式が高いことの象徴になるからである。

また、特別な功績を残した人や徳の高い人、詩や音楽の才能に秀でた人が亡くなる際にも幾人ものバンシーが現れる。こうした人々は、妖精たちから「自分たちに近い存在」として認識されており、常に見守られている。そのため、バンシーたちの悲しみもより深いものとなるようだ。

ちなみに、大きな屋敷には普段からバンシーが住み着いている場合もある。屋敷につくバンシーの多くは、その家の先祖の中でも若くして命を落とした女性の姿をしているという。彼女たちは家事の手伝いをしたり、赤ちゃんに子守唄を歌ったり、子供たちとチェスやトランプで遊んだりと、穏やかな一面を見せるのだ。

― 関連書籍 ―

  • エドゥアール・ブラゼー著/松平俊久監修(2015)『西洋異形大全』― グラフィック社
  • トニー・アラン著/上原ゆうこ訳(2009)『ヴィジュアル版 世界幻想動物百科』― 原書房
  • 井村君江(1987)『妖精の国』― 新書館
  • 水木しげる(1996)『カラー版 妖精画談』― 岩波新書
  • 草野巧著/シブヤユウジ画(1999)『妖精』― 新紀元社
  • 井村君江(2008)『妖精学大全』― 東京書籍
  • キャサリン・ブリッグズ著/石井美樹子・山内玲子訳(1991)『イギリスの妖精』― 筑摩書房
  • 井村君江(2000)『妖精とその仲間たち』― 河出書房新社

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