妖精データベース
バーゲスト
Illustrator : SHIZ
- 名称 バーゲスト(Barghest, Barguest)
- 別名 パッドフット、シュライカー
- 分類 死を告げる妖精
- 生息地 墓地、古戦場跡、大きな事故・事件現場
- 特徴 赤く光る眼と鋭い鍵爪をもつ、足跡を残さない
- 体長 大型犬くらい
翌日訃報が届いたんだ
バーゲストとは ~―死を知らせる妖精
バーゲストが姿を見せたら、もうすぐ親しい人がいなくなってしまうかもしれない。バーゲストという妖精は死の匂いを嗅ぎつけるのだが、死期が近い本人の前には現れない。その人の家族や友人にだけ、そっと自分の存在を見せて知らせるのだ。
バーゲストが人前に出現するのは夜。暗い夜道を一人で歩いている時、街灯の下にバーゲストが佇んでいることがある。また一人で家にいるときに、この妖精がスーッと現れて、音もなく消えていく様子も知られている。
バーゲストは自分の姿を現す以外にも、いろいろな方法で存在を知らせる。いつしか、民家の前でバーゲストが吠えたことがあった。これは、命の灯が消えかかっている人が複数人いるというメッセージ。家族に災難が降りかかる前兆だ。
また、バーゲストが公園や道路を傷つけると、街が自然災害に遭う印。朝起きて誰かが街を荒らした形跡があったら、慎重に調査したほうがいい。人間のいたずら程度ならいいのだが…。もしバーゲストが原因なら、それは更なる厄災の予兆なのだ。
赤目の予言者は夜に現れる
知人の死期を告げるバーゲスト。死神に仕える使者のようなこの妖精は、どのような姿なのだろうか。バーゲストの見た目は、大きな黒い犬。
ただし暗闇の中で見ると、バーゲストがまとう覇気やオーラのせいで、さらに巨大に見えることがある。また、バーゲストが後ろ足で立ち上がる様は迫力に溢れている。これは、まさにクマそっくりの格好だ。
犬の格好をしているバーゲストは、毛がふさふさで艶がある。まるで血統書付きの犬のような、立派な毛並み。動物の犬と違うのは、目がギロリとして赤いこと。暗闇でバーゲストの漆黒の体が見えづらくても、鋭く光る赤い目は決して見落とせない。
さらに大きな鍵爪があるのも、この妖精の特徴。災害の前兆として公園や道路に付けられる傷は、バーゲストの爪によってできたものだ。
バーゲストを見たというある老人は、この妖精の首に鎖が巻き付いていたと話す。その鎖は無造作に首に巻き付き、一方の端は千切れてだらんと垂れ下がっていたそうだ。鎖があるかないかは、目撃者によって話が分かれるところ。そのためバーゲストを認識するためには、赤い目と鍵爪を目印にした方が確実だ。
ちなみに、バーゲストの姿が確認されているのは夜だけ。日中は姿を消して、街の片隅に潜んでいる。彼らには自分の住処があるので、明るい時間は人間と少し距離を置きながら休んでいるのかもしれない。
先祖の眠りを見守るバーゲスト
陽が落ちて彼らの活動時間になるまで、バーゲストは墓地で過ごしていることが多い。墓地は彼らの住処で、穏やかに休息できる場所でもある。死と関わりが深いこの妖精は、死後の世界を守る番犬のような役割も兼ねているのだ。
そして、自分が住みつく墓地を荒らしたり、いたずらをしたりする者を嫌う。バーゲストは、自分で人を殺すことができない。しかし悪だくみをしている人間には、ナイフのような牙や爪を見せて威嚇する。
墓地を管理している教会やお寺の人によると、夕べになると時々犬の影が伸びのポーズをしている様子が見られるそう。きっと、バーゲストが街へ繰り出す準備をしているに違いない。もしくは、弱くなった命の音があるか、耳を澄ませて調べているのかも。
日中は、墓地でのんびりしているバーゲスト。姿こそ見えないが、私たちの様子をしっかりと観察している。そして先祖の安らぎと大切な墓を、悪者から守ってくれている。私たちの先祖は、この妖精がいてくれるおかげで安らかな時間を過ごせているのだ。
見た者を死へと誘うブラックドッグ
ブラックドッグ(ブラックシャック)と呼ばれる、バーゲストによく似た妖精がいることを知っているだろうか。ブラックドッグもバーゲストと同様、燃えるような赤い眼をした黒い犬の姿で我々の前に現れる。
しかし、一見すると気品漂う大型犬のようなバーゲストに対して、ブラックドッグの毛並みは乱れ、その口からは絶え間なくヨダレが流れ落ちる。体格も雄牛とそう変わらない。「真っ赤な炎を吐き出した」、「頭部がなかった」などの目撃談も報告されている。
もしも夜道でこの妖精に遭遇したら、バーゲスト以上の恐怖を感じることは確実だ。事実、ブラックドッグと遭遇した者は気絶をしたり、記憶を失ったり、体が動かなくなるという。そして、そのまま亡くなってしまう人も少なくない。
そう、ブラックドッグは死を予言するバーゲストとは違う。自分の姿を見た者を死へと誘う妖精なのだ。
不幸な目に遭わない方法はただひとつ。ブラックドッグを見かけても一切反応しないことだ。恐怖心をじっと押し殺し、ブラックドッグに気付かないふりを決め込むことさえできれば、相手もこちらに興味を示すことなく去っていくだろう。
不吉なイメージの強いブラックドッグだが、中には人間の子守りをしたり、道に迷った人を導いたり、牧羊犬さながらに酪農家の手伝いをしたりと、人間のパートナーのように活躍する個体も確認されている。
しかし、我々に友好的なブラックドッグと危険なブラックドッグの見分け方は伝わっていない。夜道で黒い影を見かけたとしても、正体は確かめない方が安全だ。
― 関連書籍 ―
- エドゥアール・ブラゼー著/松平俊久監修(2015)『西洋異形大全』― グラフィック社
- 荒俣宏監修(2018)『水木しげる 日本の妖怪・世界の妖怪』― 平凡社
- ピエール・デュボア著/つじかおり訳(2001)『妖精図鑑~空と風の精~』― 文溪堂
- トニー・アラン著/上原ゆうこ訳(2009)『ヴィジュアル版 世界幻想動物百科』― 原書房