妖精データベース
ピクシー
Illustrator : 未勇
- 名称 ピクシー(pixy, pixie)
- 分類 羽付き小妖精
- 生息地 のどかな田園地帯、森、洞穴や岩の中、環状列石など
- 特徴 陽気でいたずら好き、自然を操る
- 体長 小さな個体は数センチ、大きくても人間の膝丈程度
羽を生やしたいたずらっ子は人をからかい遊ぶのだ
ピクシーとは―空を自由に飛び回る小さな陽気者―
ピクシーは とても小さな妖精で、背中には蝶々やトンボのような羽が付いていることが多い。キノコの下で雨宿りができるくらい小さなピクシーもいるのだとか。
人間と似たような体つきだが、鼻や耳がツンと尖っている。ピクシーの肌は人間と同じような色をしているが、まれに、青色や緑色の肌をもつ個体もいるようだ。
ピクシーは服をこしらえるのが苦手であり、穴が開いた布、そして花びらや葉っぱを身にまとっていることが多い。特に、キツネノテブクロの花を帽子代わりにかぶることが人気だ。
ピクシーが好んで住み着くのは、平和でのどかな街と言われている。例えばイギリスの田園地帯が有名だ。日本でも、郊外や田園地帯で見た人がいるかもしれない。
彼らは、いろいろな所に巣を作る。馬のたてがみの中に巣を作り、揺れ心地を楽しんでいるピクシーもいるという。あるいは人間が住む家の庭や近くの森、花畑にもピクシーの家が見つかるようだ。
自分の家にピクシーがいるかどうか、こちらから確かめる方法はない。しかし壁をノックする音がしたり、突然明かりが消えたりしたら、ピクシーが遊んでいる証拠だ。ピクシーがぴちゃぴちゃと水で遊ぶ音を聞いた人もいる。
ピクシーは空中を自由自在に飛び回り、数人集まってダンスをすることもある。寒い冬が終わり暖かくなる季節には、歓喜の舞を楽しんでいるピクシーたちに遭遇するだろう。彼らが輪になって踊ったあとに地面に残る輪は、フェアリーリングと呼ばれている。
天真爛漫な悪戯妖精
ピクシーはいたずら好きで、しばしば人間を困らせる。特に旅人はご注意あれ。道案内にピクシーを選ぶのは危険だから。彼らの助言に従ったばかりに道に迷ってしまった旅人が、これまで何人いたことか…。
もし旅の途中で「なにか怪しい」と思ったら、上着を裏表逆に着ること。いたずらが解けて、正しい道へと戻れるはずだ。
何事にも純粋に楽しむピクシーには、「物事には裏側がある」という概念がない。転じて、裏返した服を着ている人間はピクシーの目には見えず、いたずらを仕掛けられなくなってしまうのだ。
ピクシーに邪魔されずにスムーズな旅を楽しみたいのであれば、彼らが苦手とする塩を入れた小袋や、馬蹄モチーフのアクセサリーをあらかじめ身に着けておくのもよいだろう。
また、ピクシーは動物を操ることにも長けている。森に住む野生動物を手なずけるなんて、彼らにとっては朝飯前。暴れ馬を自在に乗りこなして円を描くように走らせれば、その足跡はガリトラップに早変わりだ。
ガリトラップは、ピクシーが仕掛ける罠。うっかり足を踏み入れた人間は、金縛りにあったかのように体が動かなくなってしまう。突然のできごとに驚く人間の顔を見て、ピクシーたちは実に楽しそうに笑うのだ。
そして髪の長い人も、ピクシーの恰好のいたずら相手だ。人間が寝ている間に、髪の毛を絡ませておくというのだ。朝起きて、髪の毛がぐしゃぐしゃに絡まっていれば、ピクシー達に遊ばれてしまったのだろう。
残念ながら、ここでは服を裏表逆に着直しても意味がない。ピクシーにいたずらされてもいいように、朝の身支度には十分余裕を持っておこう。
ピクシーの意外な一面
日本でピクシーといえば、『ハリー・ポッター』に出てくるような、獰猛でひどい妖精の印象をもつ人がいるかもしれない。
一方で、ピクシーに助けられたという人も多いことを知っておこう。もし家事や仕事が知らないうちに終わっていたら、それはピクシーが手伝ってくれた証拠だ。ただし、ピクシーが手を貸すのは、心のきれいな頑張り屋に限られている。
怠け者が大嫌いなピクシーは、さぼっている人を見かけると鼻や頬をつねったり、いきなり大きな音を立てて驚かせたりと、ささやかな抗議をする。
また、魔法が使えるピクシーは自然を操ることが上手。植物を大切にしている人の庭の花壇や森の木々に魔法をかけて草木を早く成長させたり、花のつぼみを咲かせたりしてくれる。「いつもより早く花が咲いたな」とか「木々がいつもより活き活きしているな」と感じたら、それはピクシーの魔法のお陰かもしれない。
ここまで読んだ読者の中には、助けてくれたお礼に、ピクシーに贈り物をしたいと思う人もいるだろう。その際は、衣服を贈ることだけはやめておこう。ピクシーたちが身に着けている葉っぱや花びらは、人間の目には粗末に映るかもしれない。
しかし、ミニチュアサイズの服を丁寧にこしらえてプレゼントしても、残念ながら彼らには喜んでもらえない。それどころか、服を贈られたピクシーは、二度とあなたの前には姿を現さなくなってしまうのだ。 もし何か贈り物をしたければ、食べ物をあげるといい。フルーツやミルク、生クリーム、パンなどが好評だ。
用意するのは難しいが、その年に収穫したリンゴの最後のひとつや、絞った牛乳の1滴めなど、特別感のある食べ物ならさらに喜ばれるだろう。または、水が大好きなピクシーが行水を楽しめるように、大きめの桶にタップリと水を溜めておくのもおすすめだ。
基本的に、ピクシーは陽気でよく笑う。楽しいことが好きで、日々踊ったりいたずらをしたりして過ごしている。小さな子供の様に無邪気で、憎めない存在なのだ。いたずらをされても、あまり怒らないであげよう。
混乱したら使いたい「ピクシー・レッド」
英語を勉強している人に、ぜひ覚えてもらいたい言葉がある。イギリスでは頭が混乱したときに「pixie-led(ピクシー・レッド)」という形容詞が使われている。「led」は「導く」を意味するleadの過去形であり、直訳すると「ピクシーに導かれた」、つまり「ピクシーに惑わされた」という意味だ。
「pixie-led」はもともと、ピクシーに化かされて道に迷った旅人が、「いくら歩いても目的地に辿り着かない」「何度も同じ道に戻ってしまう」とパニックになる様子を表す言葉だった。
17世紀半ば頃から使われている表現で、ピクシーの存在を身近に感じているイギリスならではの慣用句と言えるだろう。ややこしい話を聞いて頭がこんがらがったときには、この言葉を使ってみよう。
Tips
いたずら者のピクシーだが、他の妖精たちは彼らのことを「妖精界一のお人好し」と呼ぶ。それはピクシーたちが誰に頼まれずとも、草花の手入れをして人間を手伝ったり、人の飼っている牛の毛並みを美しく整えたりするからだ。
― 関連書籍 ―
- エドゥアール・ブラゼー著/松平俊久監修(2015)『西洋異形大全』- グラフィック社
- クリエイティブ・スイート編(2010)『妖精・精霊がよくわかる本』- PHP研究所
- ポール・ジョンソン著/藤田優里子訳(2010)『リトル・ピープル』- 創元社
- 水木しげる『カラー版 妖精画談』(1996)- 岩波新書
- 草野巧著/シブヤユウジ画(1999)『妖精』- 新紀元社
- 井村君江(1993)『イギリス・妖精めぐり はじめての出会い』- 同文書院
- キャロル・ローズ著/松村一男監訳(2014)『世界の妖精・妖怪事典』- 原書房
- 井村君江(2008)『妖精学大全』- 東京書籍