妖精データベース

パック

puck
パック

Illustrator : 白野アキヒロ

  • 名称 パック(puck)
  • 分類 人型の小妖精
  • 生息地 森に住むが、町や村でも頻繁に目撃
  • 特徴 悪戯と愉快なことが大好き、生き物や物に変身
  • 体長 ポピーの種ほどしかない
妖精王からも愛される、
変身上手な<おどけ者>

パックとは―妖精王の道化師を務めるひょうきん者―

パックは、いたずらや楽しいことが大好きな妖精。いつも「楽しいことがないかな」「こんなことしたら、みんなビックリするかな」と色々いたずらをしながら暮らしている。

パックのいたずらに遭った人によれば、パックが奏でる笛の音によって体が勝手に動いて踊り続けてしまったのだとか。

また、腰掛けようとした椅子がいきなり倒れたので驚いていたら、実は椅子に化けたパックだったこともある。

パックのいたずらのイメージ画像
パックが登場する喜劇『夏の夜の夢』の一幕。
職人の男「ニック・ボトム」は、パックの悪戯によって頭をロバの姿に変えられてしまう。
(出典:Adobe Stock)

パックは人間の事を四六時中観察しているので、私たちが何に驚くかをよく知っている。「夜中に火の玉を見た」という証言を聞いたことがあるだろうか?これも、実はパックによる悪ふざけの一つ。彼が何をしでかすのか、誰も予想できないのだ。

しかしパックのいたずらは、決して「誰かを困らせてやろう」という悪意あるものではない。ちょっとした遊び心でみんなを楽しませたい、そして笑わせたいという気持ちが強いだけなのだ。

というのも、パックは妖精の王オベロンに仕える道化師。王宮内では、オベロン王とその妻のティターニアを楽しませる仕事に従事しているのだが、王宮の外でも道化を演じる癖が抜けきらず、常にやんちゃをしたくなってしまうのだ。

変幻自在に見た目を変えて、私たちを驚かす

パックが動物の真似をすることはもちろん、老人や他の妖精の姿になることだって珍しくない。ここでは、頻繁に目撃されているパックの姿について紹介しよう。彼が好んで変身する見た目を知っておけば、「これはパックかもしれない!」と思えるはずだ。

パックのお気に入り姿の一つ目は、ヤギの体に人間の頭が付いた奇妙な動物だ。この変身は、誰かを驚かせるだけが目的ではない。「怪物が出た」と町中をパニックに陥れることができるため、面白いことが大好きなパックはよくこのような奇抜な変身をする。

他の目撃情報によると、人間の子供に羽や角が生えた姿であることも…。珍しい見た目の動物や人を見たら、慎重に近づいた方がよいのかもしれない。

またパックは、茶色い布切れをまとったブラウニーという妖精に化けることも多い。「ブラウニーが家に住みつくと、その家には幸運が訪れる」という言い伝えから、多くの人がブラウニーに扮したパックを家の中へ迎え入れる。

ところが、人助けと家事が好きなブラウニーとは真逆の性格をしたパックに、期待を裏切られてしまう。彼は、掃除したばかりの床の上を泥だらけの足で歩き回ってみたり、家事を手伝うふりをして戸棚の皿を落としてみたり、庭先の馬を逃がしてみたりと、様々な騒動を巻き起こすのだ。

ハロウィンのイメージ画像
パックの体はポピーの種ほどの大きさしかない。変身上手な彼は、小さな体を大きなヤギやブラウニーの姿に変えるのだ。
(出典:Adobe Stock)

「もしかして、このブラウニーはパックなのでは…?」と疑問を感じた時に確かめる方法が一つだけある。それは、おいしそうなパンやミルク、あるいは丁寧に仕立てられた服を彼に手渡してみることだ。

彼が本物のブラウニーであれば、贈り物を受け取ることをためらうか怒りだすか、もしくは「もうここでの仕事は終わった」とばかりに家を去って行ってしまうはずだ。

しかし、お調子者のパックが変身したブラウニーなら、歓声を上げてプレゼントを受け取ることだろう。そして、まるで本物のブラウニーのように、家人が寝ている間に炊事や掃除をテキパキと片付けておいてくれるのだ。

姿によって変わるパックの呼び名

パックが変身した姿を見て、その正体を見破れる人はとても少ない。そのため、変身した姿によって様々な呼び名が付けられた。様々な姿と名前があって少々ややこしいが、いくつか覚えてみよう。

馬やロバ、ヤギなど動物の姿に変身したものは「プーカ(Púcá)」と呼ばれていて、特にアイルランドに住んでいる人々の間で親しまれている。アイルランドの「プーカ」は日本語では「オスのヤギ」という意味で、パックが変身した見た目そのままを呼び名にしたのだ。

また、動物の体に人の頭という姿に変身した姿は、「ロビン・グッドフェロー(Robin Goodfellow)」と名付けられた。「ロビン」は男性の名前で、この妖精に親しみをもたせるために付けられたという。「グッドフェロー」とは、日本語で「良い奴・善良な者」という意味。

「ロビン・グッドフェロー」は日本語に訳すと「善良なロビン」となる。お年寄りを助けたり、体が弱い人に代わって仕事や家事をこなしてくれたりする様子が知られていて、優しい隣人としてふるまう時にはこの姿を取るのが好みなようだ。

プーカもロビン・グッドフェローも、元はパックという1人の妖精だ。特に善良な一面を見た人々がグッドフェローの名を授けたが、パックであれプーカであれ、本当は同じ心を持っているのだ。

Column

キューピットのような一面―恋する人の夢を叶える―

パンジーのイメージ画像
パンジーの花の搾り汁を「まぶた」に塗ると、目を開けて最初に見た異性に恋をしてしまうのだとか……。
(出典:Adobe Stock)

愉快なことが大好きなパックだが、過去には彼のいたずら心と、パンジーの汁で作った惚れ薬が発端となり、数人の男女の間で恋の大混乱が起こってしまったこともある。

しかし最後には、いたずらを反省したパックがオベロン王と協力することで、全ては丸く収まった。

結果的にとはいえ、悩める2組の恋人たちと1組の夫婦(オベロン王と妻のティターニアだ)をハッピーエンドに導いたパック。

現在では、恋を叶えるために努力している人の夢の中に彼が気まぐれに現れることもあるという。相手の気持ちや恋のアドバイスを聞くことができるので、夢でパックに会えたら自分の気持ちを話してみよう。きっと、たくさんの恋を見てきたパックならではの、特別なアドバイスがもらえる。

Tips

パックは喜劇『夏の夜の夢』の中で、恋人を裏切った者に対しては憤り、想い人に振りむいてもらえない者には同情的に振舞う。いつも悪戯ばかりでおっちょこちょいのパックだが、やさしく真っすぐな心の持ち主でもあるのだ。

― 関連書籍 ―

  • エドゥアール・ブラゼー著/松平俊久監修(2015)『西洋異形大全』- グラフィック社
  • ポール・ジョンソン著/藤田優里子訳(2010)『リトル・ピープル』- 創元社
  • トニー・アラン著/上原ゆうこ訳(2009)『ヴィジュアル版 世界幻想動物百科』- 原書房
  • 井村君江(1996)『ケルトの妖精』- あんず堂
  • 井村君江(2008)『妖精学大全』- 東京書籍

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