妖精データベース
ブラウニー
Illustrator : 未勇
- 名称 ブラウニー(Brownie)
- 別名 ロビン・ラウンド・キャップ、コウイ
- 分類 人型妖精
- 生息地 屋根裏や暖炉、古い大木の洞、城跡など
- 特徴 家事や手伝いを好む、茶色のぼろ切れを着用
- 体長 人間の腰の高さくらい
夜間にテキパキと家事をこなす
ブラウニーとは―人と共生する働き者妖精―
ブラウニーは、民家に住みつく人型の妖精だ。人間の力では難しい仕事に手を貸したくなる気質をもち、住人の一人として自分にできる仕事が無いか探している。
特に家事をするのが大好きな妖精で、夜になると活動を始め、人間がやり残した掃除や片付けなどを終わらせてくれる。時には夜中に泣き出した赤ちゃんをあやしたり、田畑を耕したりと大活躍だ。
ブラウニーは家事や人間を好む一方、シャイなので人前に姿は見せたくないようだ。人間が寝静まってから朝まで家事をしたブラウニーは、目覚まし時計が鳴ると自分の寝床へと帰ってゆく。人間にとっては目覚めの合図である目覚まし時計だが、ブラウニーにとっては「隠れ家へ帰る時間だよ」と、休憩を示す合図になる。人間が活動的な日中は、物陰や屋根裏でゆっくりと自分の時間を満喫しているのだ。
「ブラウニーが住みついた家には幸福が訪れる」、という言い伝えを聞いたことがあるだろうか。夜に家事をするブラウニーがいる家には、泥棒が入りにくかったり、火の不始末による火事が起こりにくかったりする。また、ブラウニーは、特に気に入った家には、ずっと幸せに暮らせるおまじないをかける。このおまじないが、いろいろなトラブルから家族を守ってくれるという。
さらにブラウニーは、住みついた家の家族の中から誰かひとりだけを選び、特別に愛情を注ぐ傾向がある。その人が困っていればいつも以上に気合を入れて手伝うし、チェスやトランプゲームで負けそうになっていたら、こっそりと勝てる手を教えてくれる。
過去には、大好きな少年の戦死を嘆き悲しむあまり、人間を困らせる意地悪な妖精「ボガート(Boggart)」に変貌してしまった ブラウニーもいたのだとか*。ブラウニーは働き者なだけでなく、深い情を持った妖精なのだ。
ブラウニーがボガートに変身してしまったのは、少年を戦争へ向かわせた家族に対する逆恨みだったのかもしれない。
ちなみにシャイなブラウニーは姿を見せないが、自分も人間家族の一員だと信じている。そのため「ブラウニー!」と呼ぶと、電気をチカチカさせたり壁をコンコン叩いたりして返事をしてくれるのだ。ブラウニーの存在を確認したいときに、試してみてはいかがだろうか。
小柄で茶色の妖精
ブラウニーは、どの個体もまるでおじいちゃんの様な優しい顔をしているのが特徴。柔和な顔には皺が刻まれ、大きな耳や鼻がチャームポイントだ。体長は人間の腰の高さほどで、とても小柄だ。見た目はのんびりとした好々爺という感じだが、夜な夜な家事をこなす姿はプロフェッショナルそのもの。
ネズミのようにすばしこく駆け回り、テキパキとタスクをこなしていく。その様子を間近で見ることは大変稀だが、人生で一度は見てみたい仕事ぶりだ。
ブラウニーの名前は、彼らが着ている茶色いぼろ切れが由来となっている。全身が茶色で包まれている妖精なので、いつしかこの名前で呼ばれるようになったのだ。*
茶色は英語でブラウン(brown)
さらに、お菓子のケーキにも「ブラウニー」と名付けられたものがあるのを知っているだろうか。
この焼き菓子を作った職人は、チョコレートの様な茶色い妖精が懸命に仕事をこなす姿を覗き見たのかもしれない。それとも、妖精ブラウニーにお菓子作りを手伝ってもらったから、彼らをイメージしたお菓子を作り、お礼にしたのかな。
ブラウニーと上手く付き合うには
猫の手も借りたいほど忙しい日は、家事が終わらなくても落ち込む必要はない。きっと、ブラウニーが夜中に手を貸してくれるはずだ。
でもその際に気をつけたいのは、彼らへのお礼を忘れないこと。感謝が無くては、いくら家事好きのブラウニーといえども手伝ってはくれない。
ボール一杯のクリームやミルク、もしくはハチミツを塗ったパンを、「うっかり、しまい忘れた」体でテーブルの上に置いておこう。これ見よがしにお礼の品を置かれると、シャイなブラウニーは手が付けづらくて怒ってしまう。
また、ブラウニーに衣服を贈るのはタブー。お礼に綺麗な衣服を与えてしまうと、他のブラウニーに綺麗な自慢したい欲求に駆られて、夜の間に家を去ってゆくのだ。
さらに、ブラウニーに名前をつけたり、仕事ぶりを監視して「もっと丁寧に!」などと注文することも、彼らの心を傷つけ、良好な関係にヒビを入れてしまう。
彼らを呼ぶ時には「ブラウニー」という種族名か、「彼」や「おじいさん」などとぼかした表現を使うのがおすすめだ。
ここまで読んで、働き者のブラウニーに「自分の家にも来てほしい」と思っている人がいるだろう。
ブラウニーを家に呼び寄せるには、環境づくりに気を配ろう。ブラウニーは、家事をこまめにやる人にはちょっと手を貸したくなる妖精だ。最初から家事に関心がない人だと思われてしまっては、ブラウニーもやりがいを感じずに出て行ってしまう。山積みの家事を押し付けるのではなく、ブラウニーと一緒に家事を楽しむつもりでいるのが大切だ。
そして家の中には、身を隠す場所も必要。暖炉や押し入れ、植物の影など、彼らが隠れられる場所を用意してあげよう。できればそこに馬の蹄鉄を吊り下げておくと、ブラウニーは大喜びだ。蹄鉄は「ブラウニーのブランコ」とも呼ばれており、彼らの大好きな遊具なのだ。
ブラウニーは妖精なので、実は透明になる魔法が使える。にもかかわらず、恥ずかしがり屋なブラウニーは隠れ場所が無いとどうにもソワソワしてしまう。植木鉢や家具、デコレーションを充実させておくると、きっと気づかぬ間に妖精がやって来るに違いない。
民家を守る妖精たち
ブラウニーが民家に住みつくことや、住人に幸福をもたらす話を聞いて、座敷童を思い浮かべた人がいるかもしれない。日本に古くから存在する座敷童も、住みついた家には幸運をもたらす妖精(妖怪や神ともいわれる)として広く知られている。
ブラウニーと座敷童の違いといえば、彼らの見た目がその一つ。ブラウニーのおじいちゃんの様な姿に対して、座敷童は元気な子供が一般的だ。着ている服も様々で、子供が好むカラフルな着物を身に着ける個体もいれば、落ち着いた色の着物を着た座敷童も目撃されている。
そしてブラウニーとは違い、よく人前に姿を現すのも座敷童の大きな特徴。無邪気な子供が家を駆けまわるように、座敷童は神出鬼没だ。昼も夜もお構いなしに、あちこちで姿を見せる。住人と一緒に遊びたくて現れる時もあるし、自分が仕掛けたいたずらに人間が引っかかるのを、物陰からこっそり見て楽しんでいる時もある。
ブラウニーと座敷童は、家の守護妖精としてとても有名。彼らが出ていってしまった家は、その後不幸が続くと言われている。
ブラウニーや座敷童が住みついている家の主人は、彼らがずっとそばにいてくれるよう、お供えをするのだ。どちらも、家に住んでほしい妖精として人気がある。もし彼らが家に来てくれたら、長くいい付き合いを続けていこう。
― 関連書籍 ―
- エドゥアール・ブラゼー著/松平俊久監修(2015)『西洋異形大全』- グラフィック社
- クリエイティブ・スイート編(2010)『妖精・精霊がよくわかる本』- PHP研究所
- ポール・ジョンソン著/藤田優里子訳(2010)『リトル・ピープル』- 創元社
- 水木しげる『カラー版 妖精画談』(1996)- 岩波新書
- 草野巧著/シブヤユウジ画(1999)『妖精』- 新紀元社
- 井村君江(1993)『イギリス・妖精めぐり はじめての出会い』- 同文書院
- キャロル・ローズ著/松村一男監訳(2014)『世界の妖精・妖怪事典』- 原書房
- 井村君江(2008)『妖精学大全』- 東京書籍