妖精データベース

ジャック・オー・ランタン

Jack-o'-Lantern
ジャック・オー・ランタン

Illustrator : SHIZ

  • 名称 ジャック・オー・ランタン(Jack-o'-Lantern)
  • 分類 死者の魂を持つ妖精
  • 生息地 死者の国
  • 特徴 カボチャ型のランタンを持つ、年に一度この世に現れる
  • 体長 姿によって変動
あの世を彷徨う孤独な魂
カボチャのランタンの光を纏い、ハロウィンの夜に姿を見せる

ジャック・オー・ランタンとは
―年に一度だけ人間界に現れる妖精―

ジャック・オー・ランタンは、年に一度だけ人間の世界に姿を現す妖精だ。普段は死者の世界から出られないのだが、10月31日の日没になるとこちらの世界へとやってきて、夜明けまで街を彷徨い続ける。

ジャック・オー・ランタンは世界的によく知られた妖精ではあるものの、彼らの姿に関する目撃証言はさまざまだ。目撃者の中には、「ジャック・オー・ランタンは、光るカボチャだ。

火の玉のようにフワフワ浮きながら移動している」と言う人がいる。また「顔を隠した男が、カボチャのランタンを持って家の前をスーッと通り過ぎていった」、「カボチャ型のランタンを持った骸骨がいた」という情報も多い。

彼らの掲げるランタンが、カボチャではなくカブ(蕪)やリンゴ、甜菜(てんさい)だったという証言もある。

このように、ジャック・オー・ランタンの姿は個体によって大きく異なるようだ。しかし多くの証言から、彼らの目印が明かりの灯ったカボチャやカブだということは間違いない。

ハロウィンのイメージ画像
ハロウィンには、ジャック・オー・ランタンをイメージしたカボチャの飾りが世界中で飾られる。
(出典:Adobe Stock)

また、アメリカ南部の海沿いの町に伝わるジャック・オー・ランタンは、日本におけるイメージとは似ても似つかない、毛むくじゃらで小柄な男性の姿をとっている。

彼の目はギョロッと大きく、バッタのようにジャンプをしながら歩くのが特徴なのだとか。

さらにアフリカ系アメリカ人の間では、女性の姿のジャック・オー・ランタンが存在すると信じられている。彼女たちは、「Woman Jacky(ウーマン・ジャッキー)」と呼ばれるそうだ。

妖精は、国や地域によって大きく姿を変えるものが多い。ジャック・オー・ランタンもまた、姿が変わろうとも、世界中にその名が広く伝わる妖精なのだ。

大酒飲みの怠け者が守護妖精に

「ジャック・オー・ランタンはもともと人間だった」、という話をご存じだろうか。北欧では彼の素性について、次のように語られている。

リンゴの木のイメージ画像
ジャックは、「人生の最期にリンゴが食べたい」と悪魔に頼む。彼は、悪魔がリンゴを採りに木に登った隙に、悪魔封じの十字架を幹に刻んでしまった。
(出典:Adobe Stock)

あるところに、「ジャック」という名の大酒飲みの男がいた。彼は悪魔と契約を交わし、町一番の大金持ちになる。

飲むにも遊ぶにも不自由しなくなったジャックだったが、7年後、悪魔は再びやってきた。「望みを叶えた対価として、お前の魂をもらい受けよう」

ところがジャックは、悪魔を上手く誘導してリンゴの木に閉じ込めてしまう。悪魔は木からの脱出と引き換えに、ジャックの魂を永遠に奪わないと誓った。

時が過ぎ、寿命を迎えたジャック。ケチで怠け者だったジャックの魂はしかし、天国へ入ることができない。仕方なく地獄へと向かったジャックは、あの時の悪魔と再会する。地獄の門番を任されていた悪魔は、「ジャックの魂を取らない」という約束を守り、門を開けることはなかった。

悪魔に手渡されたランタンの明かりだけを頼りに、ジャックは居場所を求めて天国と地獄の間の通路を行ったり来たり。こうして彼は、ジャック・オー・ランタンという妖精になったのだ。

カボチャのイメージ画像
ランタンを作るために使われるカボチャは、観賞用の「ペポカボチャ(おもちゃカボチャ)」が主流だ。
(出典:Adobe Stock)

生前は困った男だったジャック。しかし私たちの世界では、いつしかジャック・オー・ランタンが守護妖精として扱われるようになった。というのも、ジャックは知恵を絞って恐ろしい悪魔を封じ込めることができたから。

今でも悪霊たちはジャック・オー・ランタンを警戒して、この妖精を避けたがる。

厄払いに、そして悪い精霊を寄せ付けないために、ジャック・オー・ランタンがとても役に立つ。例えば、玄関や車にカボチャのランタンなどを置いておくのがおすすめ。ジャック・オー・ランタンがいると思って、悪い霊たちが近付いてこないのだ。

ハロウィンの夜が「10月31日」にある由来とは

世界中で目撃されているジャック・オー・ランタン。毎年10月31日にだけ姿を見せるのは、故郷の文化に由来する。ジャック・オー・ランタンは、アイルランドにルーツを持つ妖精だ。

ろうそくのイメージ画像
10月31日にキャンドルの炎が揺らめいたら、先祖の霊が帰って来たサインだ。ただしキャンドルが倒れると、悪いことが起こるとも伝わっている。
(出典:Adobe Stock)

古代のアイルランドでは、10月31日が年末だった。新年である11月1日の夜明けまでは、あの世とこの世とを隔てる扉が解放されるタイミングでもあったという。

この日には、先祖の霊たちが扉を通って家に帰ってくる。彼らをもてなすため、そして実りに感謝し新年を祝うために、人々は「サウィン祭」という盛大な祭りを催すのだ。

ジャック・オー・ランタンは、この一夜限りのチャンスを逃さない。天国と地獄の両方から締め出された彼は、ここぞとばかりに懐かしの人間界へと戻って来るのだ。

ドルイド教発祥のサウィン祭はやがて、キリスト教圏の国々で形を変え、「ハロウィン」として定着した。サウィン祭では悪霊祓いとして焚き火が行われていたのだが、この焚き火はハロウィンにも受け継がれている。

聖なる焚き火の炎には、厄払いとともに、死者の魂を弔う意味合いもあるのだとか。彷徨えるジャックの魂もまた、優しく燃える炎に慰められることだろう。

Column

ジャックの魂を解き放つ言葉

私たちが暗い夜道で迷ってしまったときには、ジャック・オー・ランタンが明かりを灯して道案内をしてくれることがある。

この際、アメリカでは「Thank you,Jack(ありがとう、ジャック)」と、ドイツでは「Vergelt's gott!(ありがとう/神のご加護があらんことを)」と言わなければならないのだとか。

この感謝の言葉によって、ジャック・オー・ランタンの彷徨える魂は解き放たれるという。

もしも夜道でジャック・オー・ランタンの道案内を受けたなら、しっかりとお礼を伝えよう。もちろん日本語でだって構わない。貴方の心からの一言が、孤独な魂を救うのだ。

Tips

地獄の門の前で悪魔がジャックに手渡したランタンは、転がっていた食べかけのカブの中に赤々と燃える地獄の石炭を入れた即席のものだ。

いくら粗雑なランタンとはいえ、天国にも地獄にも行き場のなかったジャックに対し、さすがの悪魔も同情したのだろうか。

― 関連書籍 ―

  • マリオン・ポール著(2015)『マイ・ヴィンテージ・ハロウィン』- グラフィック社
  • エドゥアール・ブラゼー著/松平俊久監修(2015)『西洋異形大全』― グラフィック社
  • ヘンリー・グラッシー編/大澤正佳・大澤薫訳(2014)『アイルランドの民話』- 青土社
  • キャロル・ローズ著/松村一男監訳(2003)『世界の妖精・妖怪事典』― 原書房
  • ポール・ジョンソン著/藤田優里子訳(2010)『リトル・ピープル』- 創元社
  • 井村君江(2008)『妖精学大全』― 東京書籍
  • アンナ・フランクリン著/井辻朱美監訳(2004)『図説妖精百科事典』- 東洋書林

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