妖精データベース
フィルギャ
Illustrator:sirotae
- 名称 フィルギャ(Fylgja)
- 分類 人を守護する妖精
- 生息地 主人の傍ら
- 特徴 主人の守護、危険予知
- 体長 猫や人、クマほどの大きさまでさまざま
その姿は貴方の心を映し出す。
フィルギャとは―主を守る追随者―
フィルギャは、人を守護する霊体の妖精だ。呼び名の由来は、「付き従う」という意味を持つアイスランド語「Fylgja(フィルギャ)」。その名の通り、守護霊のように私たちひとりひとりに追随している妖精だ。
「主人の魂の分身」とも呼ばれるフィルギャたちは、付き従う人物の魂や性格、地位のイメージを反映した姿をしている。さまざまな動物の姿をとることが一般的だ。
例えば、大人しい人のフィルギャは、牛やヤギなど穏やかな動物の姿をしている。気性の荒い性格をした人のフィルギャは、オオカミやクマ、ライオンなどの姿が多い。その他にも、犬や猫など、主人が一番親しみを感じている動物の姿をしたフィルギャもいる。
一方で、特に賢く人望の厚い人物には、強大な力を持つ女性の姿をしたフィルギャが付き従うという。中には、ひとりで複数のフィルギャに守られている者も少なくない。
女性の姿のフィルギャは、まるで女神のようだ。彼女たちは長く美しい髪を持ち、光り輝く衣装を身にまとっている。表情は柔らかく、普段は目を閉じているようにも見えるが、主人に警告をする際などは鋭い目線を向けるという。
主人に迫る危険を警告する
彼女らは陰ながら主人の身を守っており、かばいきれない危険や脅威を前にした時にのみ、主人の夢に出て警告や助言を伝えたり、現実世界で姿を見せることがある。
例えば戦場で戦う兵士の目の前に、手や足のないフィルギャが現れたとしたら、それはその兵士が痛々しい死を遂げることを暗示しているという。反対に、安らかな表情でリラックスした姿のフィルギャであれば、苦しむことのない穏やかな死の訪れを告げている。
言い換えれば、フィルギャの姿が見えないのは、平穏無事に過ごせているという証。しかし中には、「自分のフィルギャがどんな姿なのか知りたい」と思う人もいるだろう。そんなときには、昔から伝わる次の方法を試してみるのはいかがだろうか。
用意するものは、
- スプーン※
- 紙や布でできたナプキン
スプーンを包んだナプキンを軽く手に持ち、さまざまな動物(人間も含む)の種類を声に出してみよう。
もしも貴方がフィルギャの姿を言い当てることができたなら、スプーンはナプキンから落ちるはずだ。フィルギャはスプーンを落とすことで、「正解!」というメッセージを貴方に送っているのだろう。
仮にフィルギャの姿が、自分が思い描いていたイメージと違っていてもガッカリする必要はない。たとえ頼りなさげな動物の姿でも、貴方の苦手な動物の姿でも、それはただ「貴方の魂の形」が反映されているだけにすぎない。フィルギャたちはその姿に関わらず、ありとあらゆる生き物の力と威厳をその身に宿しているのだ。
元の伝承では「ナイフを用いる」とされていますが、安全のために当記事では、スプーンを推奨しています。
フィルギャはいつも貴方の背後に
フィルギャは、北欧神話にも登場する歴史の長い妖精だ。神話の時代、フィルギャたちは「優れた予知能力を持つ者に付き従う存在」として認識されていた。
さらに昔のアイスランドやノルウェーでは、「卵膜に包まれたまま生まれてきた赤ちゃんは、一生フィルギャに守られる」と信じられていた。日本でも、このような赤ちゃんは「幸帽児(こうぼうじ)」と呼ばれ、強運と幸運の持ち主になるといわれている。
しかしフィルギャは、限られた人たちだけの妖精ではない。予知能力を備えていなくても、幸帽児でなくても、全ての人の傍らにフィルギャは存在しているのだ。
彼女たちは、主人の寿命が尽きるときにともに消滅するとも、消滅することなく子孫に代々受け継がれるとも伝わっている。いずれにせよ、フィルギャと主人との絆は、主人が一生を終えるまで途切れることはない。
ちなみに、フィルギャは常に、主人から1歩か2歩ほど後ろに控えて見守っている。そのため、一般的にマナー違反とされている「後ろ手にドアを閉めること」や、「ドアの前に人が立っているのにドアを閉めること」は、フィルギャに対しても失礼な行為にあたる。
目には見えなくても、「全ての人の背後にはいつもフィルギャがいる」と考えて行動すること。これこそが、私たちの守護者への感謝を表すことにもつながるのだ。
フィルギャとヴァルキュリアの関係性
最初は人に付き従うだけのフィルギャだったが、時代が下って大規模な戦乱が発生するようになると、彼女らは主人となる武人や兵士と共に、自ら武装して戦場で活躍するようになった。
戦場で主人を守るため、武装したフィルギャは兜をかぶって馬に跨り、武器を手に取り戦場を駆け回った。
そんなフィルギャの中には、「ヴァルキュリア(ワルキューレ)」として 北欧神話に取り上げられるほどの力を持つ個体も存在した。ヴァルキュリアは、戦場に倒れた勇敢な戦士の魂を選び、「ヴァルハラ」へと導く乙女たちだ。
ヴァルハラとは、神によって造られた戦死者のための宮殿。ここに運ばれた戦士たちは、戦いの神「オーディン」の養子として歓待される。彼らはヴァルキュリアから、猪肉のシチューやビール、果実で作られた美酒を振舞われ、ケガを負うことのない槍試合に興じる毎日を送るという。そして、来たるべき最後の戦い「ラグナロク」に備えるのだ。
ヴァルハラではしとやかなメイドのように振舞うヴァルキュリアだが、本来の彼女たちは勇猛果敢。戦死者の魂を選ぶだけではなく、時には自ら槍や剣を振りかざして勇ましく戦った。 ヴァルキュリアと共に戦った戦士は、幾度もの戦線を乗り越えたことだろう。
Tips
フィルギャの中には、人の死の運命を決めてしまうほど強い力を持つ者も存在する。彼女らは主に王侯貴族に仕えるフィルギャたちであり、主人に危害を加えようとする者の命を容赦なく奪っていくという。
― 関連書籍 ―
- エドゥアール・ブラゼー著/松平俊久監修(2015)『西洋異形大全』- グラフィック社
- クリエイティブ・スイート編(2010)『妖精・精霊がよくわかる本』- PHP研究所
- ポール・ジョンソン著/藤田優里子訳(2010)『リトル・ピープル』- 創元社
- 水木しげる『カラー版 妖精画談』(1996)- 岩波新書
- 草野巧著/シブヤユウジ画(1999)『妖精』- 新紀元社
- 井村君江(1993)『イギリス・妖精めぐり はじめての出会い』- 同文書院
- キャロル・ローズ著/松村一男監訳(2014)『世界の妖精・妖怪事典』- 原書房
- 井村君江(2008)『妖精学大全』- 東京書籍